1 キッチンでドリンカー

西暦2035年4月某日。春になると引っ越したくなる。サントリーのブレンデッドウイスキーを飲みながら我ながらキッチンドリンカーになってんなあと自覚しつつ、それにしても30年近く前に人気だったというドランクドラゴンというお笑いコンビの眼鏡は面白いなー。などと、指先から血をぼとぼと落としながら町田は土曜日の昼間っから酔っ払っていた。六本木のスタジオ兼自宅から下北沢に引っ越して2週間が経った。引っ越したのは、六本木の家賃を払うのが苦しくなったことと、生活のリズムがどうにもマンネリしてきた気がしたからだった。打ち合わせ、録音、再度打ち合わせ、修正。しばしば連夜のDJ。深酒。気が付けば打ち合わせに遅刻。犬の散歩。案件のペンディング。そのうち彼女は部屋を出て行った。GWが終わりに差し掛かり、世の中が平常のリズムを取り戻しつつあることをニュースが告げていた。『鉄道や空の便の混雑はピークを過ぎ、落ち着きを見せています』その口調が少しうっとおしそうに喋っていたので、ついその女子アナウンサーの顔を見ると、いつだったかのクラブで激しく踊っていた人物が映っていた。よく似ていた。でも東洋人はよく似てるし、化粧をあれだけしたらサラニクベツツカナイヨー。「誰だって同じようなものサね。」独り言を言うのは決まって酔っ払ったときだ。それにしてもこの血を止める手段を考えないとな。いつだったかに見た覚えがかすかにあるキュウキュウ箱とかいう医療系のアイテムが詰まった箱の存在を町田は一生懸命思い出そうとした。が思い出せないのでなおもウイスキーをあおった。

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